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京都地方裁判所 昭和60年(わ)907号 判決

本籍

京都府長岡京市今里三丁目六番地

住居

同府八幡市八幡三本橋六〇番地富郁荘

無職

小西英次

昭和二年五月一八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官關本倫敬出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金一四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、京都府長岡京市今里三丁目一番一七号に居住していたものであるが、自己の所有する同市今里三丁目一一番一ほか五筆の田及び山林を昭和五九年三月二二日から同年一一月一五日までの間に三億三一七万五、〇〇〇円で売却譲渡したことに関して右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、全日本同和会京都府・市連合会会長鈴木元動丸、同連合会事務局長長谷部純夫、同連合会辰己支部事務局長村井信秀らと共謀のうえ、自己の実際の五九年分分離課税の長期譲渡所得金額は二億七、〇四五万六、二五〇円、総合課税の総所得(配当所得、給与所得)金額は五三万六、〇〇〇円で、これに対する所得税額は八、三七〇万三、〇〇〇円であるにもかかわらず、株式会社ワールドが有限会社同和産業から三億円の借入れをし、その債務について自己が連帯保証人となり、右ワールドが破産したことから右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で同年一一月二〇日二億四、〇〇〇万円履行したが、右ワールドに対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどして、同六〇年一月二二日、京都市右京区西院上花田町一〇番地の一所在所轄右京税務署において、同署長に対し、自己の五九年分分離課税の長期譲渡所得金額は三、八〇一万六、二五〇円、総合課税の総所得金額は五三万六、〇〇〇円で、これに対する所得税額は七五七万一、五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により右の正規の所得税額八、三七〇万三、〇〇〇円と右申告税額との差額七、六一三万一、五〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書五通

一  証人村井信秀の当公判廷における供述

一  松山元、松山忠圀、岩井富代美(謄本)、村井信秀(謄本四通、検第七号ないし第一〇号、但し第八号及び第一〇号については抄本提出部分に限る)、鈴木元動丸(謄本)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の証明書及び捜査報告書謄本

(事実認定についての補足説明)

被告人及び弁護人は、被告人にはほ脱の犯意はなかったものであり、これを認めた被告人の検察官に対する供述調書は信用できない旨主張するところである。

そこで、被告人の検察官に対する供述調書の信用性について検討するに、〈1〉右供述は身柄不拘束の状態のもとでの取調中になされたものであること、〈2〉右供述には不自然、不合理な点はなく、また客観的事実と符合していること、〈3〉被告人の当公判廷における供述によっても、検察官の取調にその信用性を疑わしめるような状況はなく、その他被告人が虚偽の事実を述べなければならないような他の事情も存在しないことからすれば、右供述は十分信用できるものと言うことができる。

次にほ脱の犯意について検討するに、被告人の検察官に対する供述調書三通(検第一四号、第一五号及び第一六号)によれば、〈1〉被告人は商品取引に手を出し、金融業者から多額の借金をするようになったことや右取引の委託保証金を捻出するため、前記土地を売却することになったこと、〈2〉右売却代金も右取引につぎ込んだが、結局失敗に終ったこと、〈3〉被告人は、昭和五九年九月ころ、右土地を売却した際の相手方の仲介入であった岩井喜造から右土地の譲渡に伴う税金が七〇〇〇万円位かかる旨教えられ、その程度の税金がかかるものと考えていたこと、〈4〉その当時、被告人には五〇〇〇万円位しか金員を捻出するあてはなかったこと、〈5〉そこで被告人は、同年一〇月ころ、右岩井に相談したところ、同人から「金もないことやから、税金が五〇〇〇万円位で申告できるように知合いの税理士にでも頼んであげよう。あの土地はまだ未登記で、いずれ宅地に造成することになるが、その造成費用も経費にみてもらうようにすれば五〇〇〇万円位でなんとかなる。」旨の話を聞き、宅地の造成などの嘘の経費を計上するなどして申告がなされることを知りながら同人にその手続を依頼したこと、〈5〉その後被告人は前記村井信秀に合計五〇〇〇万円を手渡したが、地方税分として二三〇万円の返還を受けたこと、〈6〉その結果、前記罪となるべき事実記載のとおり脱税がなされたことが認められ、被告人の当公判廷における供述のうち右認定に反する部分は措信できない。右認定事実によれば、被告人にほ脱の犯意があったことは明らかである。

(法令の適用)

一  罰条 刑法六〇条、所得税法二三八条(懲役と罰金を併科)

一  労役場留置 罰金刑につき刑法一八条

一  執行猶予 懲役刑につき刑法二五条一項

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 大谷正治)

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